田中 隆義  

TANAKA Takayoshi

仕事の原点

　私は幼少より重度の喘息持ちで、季節ごとの発作で入退院を繰り返し、長期欠席や病院からの通学などもたびたびでした。結婚し、長男が生まれてまもなく喘息が遺伝していることを知り愕然としましたが、そのことをきっかけに、空気の良い地元東金に帰ること、大工の修行を始めることを決心したのでした。

　30代になって一人で自宅の建築を進めることになるのですが、思い返せばこの頃の思いこそ、今の仕事の原点といえる気がします。ごくわずかな経験しかないのに、なぜ自力建築に踏み切ったかと言えば理由は簡単で『家族が健康に暮らすための家を作りたい』ただそれだけでした。今では何のことはないシックハウス症候群ですが、今から20年前はそんな情報は一般的には知られておらず、自分自身も知りませんでした。『ベニヤなどの新建材を使いたくない、ビニールクロスやペンキなどの石油化学製品を使いたくない』と訴えても誰にも理解されず、健康のための住宅建築という意思がまったく伝わらなかったのです。

　試行錯誤しながらの工事は3年以上にわたって続くことになります。自分なりには確信があるとはいうものの暗いトンネルを進んでいくような3年間でした。そんな経験をしてきた者の目からみれば、現代の「早い・安い」を売りにしているような住宅は少し異様に見えます。安心して健康に暮らしたいと願う人、喘息やアトピーで苦しんでいる方、そういう人々に寄り添える工務店でありたい、そう考えています。